住職法話

住職法話

2023.01.01 新年
新年を迎えるにあたり 心を前に動かす

瑞法光寺 安倍晋三
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旧年中、皆様に支えられながら何とか新しい年を迎えました。本年もどうぞよろしくお願い致します。一年を振り返ってみますとなかなか激動の一年だったように思います。年の初めからコロナが猛威を振るってましたし、北京オリンピックもありました。そのオリンピックの終了後、数日のうちにロシアのウクライナ進行が始まり、円安やインフレが起き始めました。夏には安倍元総理が銃撃され、国葬が随分と論議を呼びました。統一教会問題や経済問題などで混乱も生じ、国内外で現在も様々な問題が起きていると思います。そんな難しい時期ですが、やはり年が明けると不思議なもので「おめでとうございます」と言いたくなります。年初めは「切り替わった」「新しいことが起こりそう」という意識が強く持てる為、切り替え時としても重要だと思っています。

この数年間流行ってきたコロナ対応もそろそろどこかで切り替えたいというのは今の世の流れになってきています。政府は今までコロナの分類を特別なものとしてきましたが、インフルエンザなどと同じ5類相当に落とすかを本格的に検討しています。民間でもイベントなどが再開をしています。以前と全く同じようにとはいきませんが感染に気を付けつつなるべく活動する、今年はそんな年になりそうですね。そしてその時に、皆様は自然と「心」を切り替えていけそうでしょうか。学校や会社、サークルなどに通い、周囲の人々にあわせて変えるという方は自然と切り替えられると思います。問題はそういった切り替えの機会をなかなか掴めない方です。やはりコロナが流行り始めて3年は長かったように思います。どうしても心が切り替えれない、なかなか前を向けない、気分が沈んでしまうという声も聞きます。そんな方に向けて、今回は仏教的ではないかもしれませんが、私の体験談を通じて「心を前に動かす」ための話をしていきたいと思います。まず考えるのは「心」が前に動かすには何が必要かということです。

 本来仏教ではこういったときに内面、要は自身の心をよく観察し、向き合うことを推奨しています。次回のお彼岸で丁度「禅定」(心の安定)の話をする予定なのでそれはその時に書かせて頂きますが、内面と向き合うだけでは足りないという状況もあります。それは「心」だけでなく、病気やケガなどで「体(身)」にも何らかの不調を負っている場合です。その際は私は「心」だけでなく「心身」両面でそれぞれ対策が必要だと思っています。お札にもよく書きますが人間の心身は密接に繋がっています。例えば皆様も病院に入院したことはないでしょうか。そして入院した時に暗い気持ち、不安な気持ちになったことはないでしょうか。私は実際にそうやって気分が落ち込んだことがあります。そしてその時、内面だけで自分の心と向き合おうとしても体の方から痛みや不調がどんどんと出てくるので、良くない考えばかりが浮かんできてなかなか良い方向にいきませんでした。勿論、私が仏教者として非常に未熟で仏様方の境地には遠く及ばないという前提はあるのですが、なかなか難しいこの世の中、同じように内面だけで解決できない方もいるかと思ったので今回は私が入院した際の体験談をする形にしました。

私の場合は一か月程の入院でしたが、やはりあの一面真っ白で薬品の匂いがあふれている病室で動けず寝たきりになっていると心も落ち込んでいくものです。そんな私が入院時に「心」を前に向けられたのは「心身」両面で気づきや変化があった為です。私がこの入院をしたのはまだ20代半ばの頃、一度目の日蓮宗大荒行堂(100日間修行)の最中に体調を崩した時でした。途中で修行を断念し、入院したのですが内臓を痛めて内出血もあった為、食事は満足に取れず、体は思うように動きませんでした。40日ほどの修行でしたが入院があともう少し遅かったら命が危なかったと言われたことを覚えています。そんな私が元気を取り戻したのはまず食事でした。修行中は冷めた薄い白粥だけという形なので久しぶりに少しでも温かいものが食べられるということはとてもうれしい事でした。また、リハビリにも励みました。筋力低下や重度の貧血で最初は立ち上がるのにも苦労しました。それでも歩行器を使い歩き始め、テレビのある待合室に行ったり、自販機などがある売店までいけるようになり体が少しずつ動かせるというのはリハビリの原動力になりました。そして少し「非日常」な体験もしました。

丁度、12月中旬に入院したので一週間ほどした時に病院でのクリスマス会がありました。その時に病院に5人ほどの方がバンドを組んで音楽演奏をしにきてくれたのです。入院してから数日は余り意識がなく、食事を少し取れるようになりようやく起き上がれるかなという状態だったので車いすを押して貰いながら参加しました。何曲か演奏がありましたが、最後に坂本九さんの「上を向いて歩こう」が演奏されました。これを聞いた時、修行場からずっと張りつめていた気持ちがふと解放されたような、生きていることをようやっと実感できたような不思議な気分になったことを覚えています。余りに感動したので車いすを押してくれていた看護師さんに無理を言ってそのバンドの方に演奏終了後に御礼を言いに行ったほどです。今思えばあの体験を境に少しずつふわふわと現実感がなかった意識がしっかりと現実に戻り、食事やリハビリなどにも心落ち着けて取り組めたのかなと思います。この体験談で言いたかったことは、皆様もコロナや病気で心が落ち込んでいるようならひとまず「何か」をしてみましょう、ということです。

例えば物を食べられるなら美味しい物を食べてみましょう。体が動くようなら歩いてみましょう。勿論皆様状況がそれぞれ違うのでそれ以外でも構わないです。無意識や義務的に行うのではなく、「何かをしたい」という自分の意思で体を動かすことで少しずつ心も動くはずです。それでも心が動かない、前に進まないのであれば「非日常」の体験をしてみましょう。私と同じように音楽を聴いてみるのも良いでしょうし、映画や本も良いかもしれません。家族や周囲の人に相談してみるのも良いでしょう。また、このお正月に行われている新年祈願会だってそうです。そういった普段しないような「体験」をすることで心が大きく動くかもしれません。心を前向きにするならば心を動かす必要があります。心が何かを「感」じて「動」く、それは一般的な言葉で言えば「感」「動」するということだと思います。ぜひ、心が動かない、切り替えられないという方は何かを体験し、今年は「感動」して心を動かしてみてはどうでしょうか。年の初め、皆様のご多幸をお祈りさせて頂きます。




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