住職法話

住職法話

2025.03.20 
西田敏行さんを偲んで(六波羅蜜の先に)



元々お彼岸は仏道修行の期間ということもあり、毎年仏道修行の六波羅蜜(布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧)に関する話を順番にさせて頂いています。ただ、昨年のお彼岸でひとまず智慧までのお話は終わりましたし、今年からは何かしら私が気になったことを仏教としては、ということでお話していければと思います。そういった中で最近、私が一番心に残ったのは令和6年10月17日、76歳で亡くなられた西田敏行さんの訃報です。つい最近も出演されていたのでとてもびっくりしたのを覚えています。今回は西田敏行さんを偲んで著書『役者人生、泣き笑い』から引用もしながら振り返っていきたいと思います。

西田さんは終戦してから2年後の昭和22年に福島県で生まれました。実の父親が5歳の頃に亡くなり、母親が他の方と再婚した為、母親の姉夫婦に引き取られて育ったそうです。幼少期はそれで色々と思うことがあったそうですが、そういったものを含めて演技の肥やしにされたそうです。戦後、映画や演劇が大衆娯楽となったのですが西田さんも幼いころからご両親とよく観に行かれたそうです。そして小学5年生の頃には俳優になりたいという想いを持ち、学校ではよく映画の役を真似てクラスの人気者だったそうです。その後、一人上京して役者を目指していくのですが、最初はなかなかうまくいかなかったそうです。東京の人間になろうとして無理をして言葉や態度を変えていくうちに、表情も性格も暗くなってしまったそうです。田舎のカッペで良いんだと開き直ってからは随分と心境が変わったそうです。日本演技アカデミーへも通い、同期の仲間と劇団を作るのですがお客さんは観に来てくれず、潰れてしまったそうです。

そういった苦労を経て、劇団青年座に入り、25歳の頃に『写楽考』の芝居で主役となり、評判が広まって徐々に活躍の場が増えていき、後に「西遊記」や「特捜最前線」などテレビ出演が増えていきました。また、その合間に行われるリハーサルや打ち上げなどの時には「打ち上げ男」との異名を貰う程、盛り上げ上手だったそうです。テレビの中だけでなく、普段からも人に好かれる人柄だったようです。私は世代的に見たことがなかったのですが、そういった西田さんの地をそのまま出せたのが「池中玄太80キロ」という番組だと本の中には書かれていました。スペシャルを除いてもパート3まで放送されたというのですから大人気ドラマです。タイトルの80キロも当時の西田さんの体重をそのまま表記するほどで、西田さんもドラマの設定と実際の家族構成が似ていたこともあり、このドラマのことは「どこまでが芝居で、どこまでが現実なのか、わからないくらい」と書かれていました。

紅白でも流れた「もしもピアノが弾けたなら」はこの時の主題歌です。ドラマやバラエティ、映画、ミュージカルと幅広く活躍される中で22作も続く代表作である「釣りバカ日誌」にも出演されます。そうやって活躍していく中で、2011年に生まれ故郷の福島が東日本大震災に襲われます。そこからは活躍の中で被災地の状況を伝えたり、農作物のPRをしたりと被災地によりそう支援活動をしていました。

長らく活躍されてた方なので西田敏行さんのイメージはそれぞれ皆様違うでしょう。玄太、という方もいれば釣りバカ日誌のハマちゃん、関西で長らく放映されているバラエティ番組、探偵ナイトスクープの西田局長、最近の方だと西田さんの遺作となったドクターXの蛭間先生かもしれません。私もそれぞれ印象はありますが、一番記憶に残っているのは20年以上務められた「人生の楽園」という番組での声だけのナレーションです。丁度、夕方6時の夕飯の時間、その支度をしながらテレビで流れているのを見ることが度々ありました。主に田舎や故郷に帰って暮らす方を紹介するのですが、西田さんが上手くご夫婦の生活ぶりを紹介していき、「素敵ですね~」などと褒め称えていくのです。声だけの出演ですが、そこに情感や共感がたっぷり込められていてこういう形で暮らしていきたいと思わせる不思議な魅力がありました。故郷が大好きで、役者として様々な表現をされてきた西田さんならではだと思っていました。

西田さんはその生涯を振り返るとかなりの苦労をされてきた方です。家庭環境で悩み、劇団を潰してしまい、役者として挫折も経験しました。家庭では奥さんと小さい喧嘩もしながら子育てに励み、様々な現場を体験する。病魔にも何度か襲われ倒れています。そういった経験からの想いが言動にも表れていて、とても人から好かれていた役者さんだと思っています。

仏教的にみてもこの生涯の苦労の中で、お彼岸にお伝えしている六波羅蜜を全て実践されている方だと思います。特に、布施行である「誰かの為に」という想いがとても強い方でした。西田さんは著書の中で役者としての考えを聞かれたときに次のように答えています。「とにかく多くの人を喜ばすこと。この一語につきますね。仕事でも酒の席でも、人をあきさせない、楽しませたい。人を楽しませることによって、自分自身が楽しめるんです。子供のころからそんな性格であったと記憶しています。ですから、自分は〝大衆演劇の役者〟であると。それを忘れないよう肝に銘じてきました。」と答えています。

布施行とはよく勘違いされますが、お金だけのことをいうのではありません。「誰かの為に」という慈悲の心を持ち、にこやかな顔で、優しいまなざしで、想いのこもる言葉で、心配りをすることも布施行なのです。まさに西田さんが行ってきたことそのものだと思いますし、布施行を続けるとこういう人から好かれる人になるのだという見本のような方だと思います。

西田さんのお別れの会の折、三谷幸喜さんが弔辞の際に文章は違うのですが同じ内容の言葉を紹介して次のようにお伝えしています。「安心してください西田さん。西田さんの遺した分身たちはこれからもずっと僕らを笑わせ、泣かせ、喜ばせ、楽しませてくれるはずです。感謝の気持ちを込めて、西田敏行様」と弔辞を結ばれています。供養とはこういうことだと思います。故人が残したものを受け継ぎ、それを繋いでいく。そして生きている我々は人生において苦労を重ね、自然と故人らと同じような六波羅蜜を重ね、また誰かに受け継がれていく。ぜひ、皆様もこの彼岸の機会に自分が誰かから受け継いだものを再確認してみてはどうでしょうか。受け継いだものを忘れない、それもまた一つの供養だと思います。



2025.01.01 新年法話
新しい年を迎えて必要なものごちゃまぜ


昨年は一昨年から引き続いての戦争や物価高があり、更に1月1日には能登半島地震が発生するなど年の初めからどんな年になるのだろうと思っていましたが、何とか皆様と共に新しい年を迎えることができました。お正月だし何か明るい話題をと探してはいるのですがオリンピックや大谷選手の活躍に関しては、凄い!という感嘆の言葉しか私も出て来ません。それでは困るので、今回は能登半島地震を通じて感心したことを書きたいと思います。

昨年のお正月に能登半島地震が起きてから様々な被害状況や復興への取り組みが伝えられました。その中の一つに「輪島カブーレ」という施設を運営する社会福祉法人佛子園がカンブリア宮殿で紹介されていました。元々、この「輪島カブーレ」は障害者就労・高齢者デイサービス・温泉・食事・スポーツジムを兼ね備えた様々な人が集える施設です。その施設も能登半島地震の影響を受けて大きく被災したのですが、「人々に日常を感じられる場所を取り戻したい」ということで震災の二日後には施設へと物資を運び、十一日後には入浴できるようになるなど早期の復興を目指したそうです。そのお陰で被災地には暗い話題しかない中で「あそこに 行けばもうお風呂に入れる」「皆で食事が取れるようになった」など、暗闇を照らす灯台のように周囲の心の支えになったそうです。佛子園の活動はそれだけでは終わらず、店を失って再建の見通しが立たない輪島の飲食店に「店を廃業する前に屋台村をやりませんか」と声をかけて少しでも活力になればと企画をしたそうです。その結果、様々なお店が出店する屋台村として人を集め、来る人にも、お店側にも元気を出して貰える、そんな場所になったそうです。

この他にも今回の被災に対して様々な手を打っているのがこの佛子園の代表である雄谷良成(おおやりょうせい)氏です。この方、日蓮宗の住職もされているのですが、この雄谷さんの祖父にあたる住職の方が戦後、障害のある戦災孤児たちをお寺に受け入れて社会福祉法人佛子園をスタートさせたそうです。雄谷さんも小さい頃から施設の方と一緒に育ち、自身も青 年海外協力隊に所属してドミニカ共和国に行かれたそうです。そして、当時まったく社会保障制度が整備されず親がいない子供なども溢れていた中、周囲の人が自然と子供の面倒を見ていた状況をみて、感動したそうです。帰国後は「こういった隣人同士がつながり、助け合って暮らす理想のコミュニティを金沢にもつくろう」と若い人も高齢者も障害者も皆が一緒に生活して活気を生む、「ごちゃまぜ」という理念をもって施設を運営、拡大されてきたそうです。今では石川県を中心に従業員1000名を超える大きな法人で16以上の施設を運営されています。自身も青年海外協力隊の理事長も兼務して能登半島地震以前の東日本大震災や熊本地震の復 興にも関わり、様々なノウハウを蓄積されていたそうです。凄い方ですね!

この「ごちゃまぜ」という考え方は色々なところに当てはまるかなと思います。社会においても「多様性の時代」ということで様々な意見が尊重されていますし、身近なところだと、このお正月行事は元々お子さんや外部の方を含めて様々な方に来て頂けたらという行事です。その為、お寺の中でも一番活気がある行事だと思います。あと樹木葬を始めてからはお寺自体もごちゃまぜになってきたように思います。始める前までこのお寺は一般のお墓のみだった為、「きちんとお墓を建てて子供まで含めて長く供養したい」という方だけでした。少子高齢化の時代背景や価値観の変化もあったように思いますが、徐々に新しく入ってくる方が減り、活気が無くなったように思います。しかし、樹木葬を始めてからは「誰かの供養をしたい」という幅広い方がお寺に通い、お墓に通い、供養をしてくれます。うちの場合、丁度墓地の入り口に樹木葬が ある為、そこによく献花されている風景をみた方からは「みんな、よく供養をしてくれるようになりましたね」と声をかけて頂いたこともあります。本当に少しづつですが、ごちゃまぜの影響で、このお寺も少し活気が出てきたのかなと思っています。

もう一度、佛子園の話に戻りますが、テレビでも議論されていましたが震災が起きた場合、高齢者・障害者・大人・子供などがバラバラに生活することはまずないそうです。確かに避難所ではそれこそ皆が一緒です。復興していく段階で限られた物や場所しかない中で個別の対応をするのはなかなか難しいことでしょう。これは震災だけではなく、戦後もそうだったし、これからの貧しくなる日本社会でも同じではと言われていました。確かに、家族みんなが一つの家に生活していた時代、理由の一つとして親の家を継承して大切に使っていました。現代でも若い人がドンドンと家を建てていくというのは難しくなり、結婚までは自宅から職場に通勤する方が多くなってきました。親の介護に関しても動けるうちは自宅で面倒を見るという方が増えたように思います。もちろん、ごちゃまぜになることでトラブルや面倒はおきるでしょう。佛子園でもその連 続だと言われていました。同時にみんなと一緒にいるという安心感があるのだとおっしゃっていました。そして今回の災害のようなごちゃまぜの状況になった時、そういったごちゃまぜの状況を 経験している方は復興に関しても強かったと聞いています。この世は基本的にごちゃまぜの世界です。色々な人や家庭、国、人種、宗教があって、更に刻々と変化していくのですからなおさらです。仏教においてもこの世は様々なことが起こり、悩み苦しみが続き、耐え忍ぶことが必要な世界だと説かれています。そして、だからこそ仏教の華である蓮のようにごちゃまぜの泥の中から栄養を貰って、綺麗な華を咲かせなさいと説かれ ています。不自然なほど透明で濁りも汚れもない水には栄養もなく、華は育たないのです。皆様も今年はぜひ少しだけでも何か新しい考えや体験に触れてみてはいかがでしょうか。良い栄養を貰えるかもしれません。どうぞ良いお年をお過ごしください。



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